未修1年次の授業紹介と入学までに準備しておくべきこと③【人権の基礎理論・法律基礎科目演習】

 今回は憲法のうち人権分野と、基礎科目ではないのですが必修科目ということで法律基礎科目演習の簡単な紹介をしていきます。未修1年次前期の授業紹介は、ひとまずこれが最終回となります。
 
 
人権の基礎理論
①授業の形式と内容
 憲法のうち、統治分野を除く人権分野から主要な権利を取り上げて基礎的な解説を行うほか、違憲審査基準論も扱います。
 授業の形式は、講義と問答の両方が行われます。民法のような法律構成の選択や事実の法的分析を延々と詰めていくようなものではなく、あくまで基礎的な諸概念の理解を問うとともに、判例をちゃんと読んでいるかの確認が主な内容としているのでしょうが、そもそも憲法は議論の抽象度が高く難解な上に学説も様々あり、判例も初学者には極めて読みにくく全文が異常に長いなどの事情もあって、初めて本格的に憲法を学ぶ人にはそうした基礎的な問答ですら相当な負担になると思います。完璧な予習は諦めて、いっそ先生と楽しくお話できればいいと割り切りましょう。
 例年憲法を担当される先生は非常に教育熱心な方で、難解な概念を極力噛み砕いて説明してくれるほか、自主勉強会も主催してくれるなど学生に様々な配慮をしてくれます。特に、理論的な事柄の説明が非常にわかりやすく、学生との問答で出て来たぼんやり断片的な話を法的な論理に沿って整理し、学生が適切に述べられるよう誘導してくれるので理解が捗ります。
 
 
②使用教材
・指定教材等
 教科書は特に限定はなく、佐藤幸治日本国憲法論』、毛利ほかリーガルクエスト『憲法Ⅱ人権』、新井ほか日評ベーシック(NBS)『憲法Ⅱ人権』などから任意のものを使うよう指示されます。判例集判例百選が主な教材として指定されるほか、松戸・初宿『憲法判例』や、憲法判例研究会編『判例ラクティス憲法』が挙げられています。
 
・その他
 百選だと事実の概要と判旨が短く解説も微妙なため、解説が充実している横大道ほか『憲法判例の射程』が人気だったほか、詳細な判決文にあたるために精読憲法判例[人権編]も使われていました。教科書としては安西ほか『憲法学読本』、伊藤・木下『基本憲法基本的人権』、答案の書き方に関する参考書として、玄唯真『読み解く合格思考憲法』がよく使われていたと思います。
 他科目ではアガルートの1問1答が有用でしたが、同シリーズの憲法判例の重要語句の穴埋め問題のような作りで、用語の定義や概念の端的な説明というようなものではないため未修の授業のお供としては少し使いにくく、情報の一元化はオーソドックスに論証集を利用するか、下記のように重問等の問題集を利用することで対応することになると思われます。
 上記の他にも様々な基本書があるので、メイン教材を何にするかは自分に合うものを選ぶことになるでしょう。ただ、未修1年の段階ではメインテキストはNBSやストゥディアにとどめ、適時判例教材を利用しながら問題演習を続けていくのが良いのではないかと思います。特に日本国憲法論に安易に手を出すのは避けましょう。
 
 
③事前準備と注意点等
・予備校を利用した授業の準備
 憲法人権も他科目と同様に予備校の入門講座や問題集を利用しておくことをおすすめします。先述のように、憲法は初学者には特に難解な科目であり、基本書を読んでも泥沼にはまるだけですので、ひとまず基礎的なことのインプットは予備校を利用した方が効率的でしょう。
 次に、問題集についてもアガルートや伊藤塾のものを受講するのがよいと思いまが、アガルート重問をめぐって少々議論があります。
 この講座は重要判例等を題材にして判例に沿った論証と処理をすることに重点が置かれていますが、いわば「判例判旨そのまま」の問題集になっています。そのため、司法試験との関係では三者間形式ともリーガルオピニオン形式とも問題形式が乖離しているほか、憲法という科目自体が単なる判例知識のインプットではなかなか過去問が解けるようにならないことも相まって使用を避ける人もいます。また、そうした特徴から他科目と異なり将来的に別の講座や教材を用いて単なる過去問演習以上の試験対策をする手間がかかることになろうかと思いますので、迂遠な学習を回避するためにも憲法は重問を使わず、より司法試験対策に直結する他の講座を使うのも一つでしょう。ちなみに、伊藤たける先生の憲法の流儀が非常に評判がよく、ローの友人もおおいに活用しているようです(私には受講経験が無いので、あくまで紹介に留めます)。
 一方で、判例の要点を正確に理解し判例どおりの事例処理ができるようにしておくこと自体は司法試験の形式以前に基礎学力の習得のうえで非常に重要です。未修クラスの期末試験との関係でも、司法試験とは異なり、あくまで授業を踏まえた重要判例の初歩的な理解を試す趣旨にとどまるところ、重問では授業で扱うような判例がそのままアウトプットの題材として採用されており、これを下地として講義内容を加筆修正すれば未修者に要求される学習水準は重問でも満たすことが可能とも考えられるでしょう。また、重問の強みとして、一定レベルまでの知識と典型論点の処理方法を迅速かつ網羅的に学習できる点が挙げられます。重問は問題集というより演習できる百選・事例付きの論証集であり、長大な判例から試験で必ず書くべきことを抽出して端的にまとめているので、その範囲では判例学習にかける時間を大幅に短縮可能です。特に前期は週2回の財産法の予習が膨大で憲法等の勉強が後手に回りがちなことから、重問を利用して人権分野全体にかかる論証知識と判例準拠の論点処理方法を速やかに習得し、最低限の労力で授業と期末試験の準備を終わらせて他科目に割く時間を捻出することができれば大きなアドバンテージになります。
 以上のように、重問憲法の持つ特徴も自分の学習方針や目的によって毒にも薬にもなると思いますので、いずれにしても自分がどのような方向での学習が合っているかで採否を決定することになるでしょう。
 
・自力で準備する場合の使用教材
 自力で準備する場合、市販の問題集と入門書で対処することになるのは他と同様です。アガルートの実況論文講義は重問よりも完成度が高いという声もあるほか、伊藤塾の新赤本は掲載問題数が40問と比較的多く網羅性が高いことに加え答案作成のための解説が非常に充実しているので初学者にも扱いやすいと思います。いずれか自分に合うものを選ぶといいでしょう。
 次に入門書については、指定教材にもなっているNBS憲法人権のほか、ストゥディア憲法人権もわかりやすく非常におすすめです。憲法学読本も薄くて分かりやすいと思いますが、あくまで概説書のようなものであり最初の一冊としては端的過ぎて分かりにくいと思われますので、少し勉強が進んでからの知識確認や復習用に使うのが良いでしょう。
 
 
 
法律基礎科目演習
 基礎科目ではありませんが、通年を通して開講される少々特殊な必修科目なので、一応ここで紹介しようと思います。
①授業の形式と内容
 長文の事例が出題されて後日講評が行われます。1か月に1,2回くらいの頻度で開催され、通年で行われる実力テストのようなものですね。2年後期から行われる民事法文書作成という授業でも同様ですが、事実関係の整理や法的な問題点の指摘、攻撃防御構造に沿った法律論の組み立てといった法曹の仕事内容を少し先取りして学生に体験してもらうような授業ですので、あくまで日々の授業で学習することが実際に法的紛争を解決するためどのように活かされてるかをイメージすることに主眼が置かれているように思います。
 成績評価は合否のみで判定され、全7回中4回以上の合格で単位取得となります。もっとも、学習の目安として起案ごとに一応の評価はつきます。
 余談ですが、履修者で司法試験の過去問を解いたり実際に答案を作成することを「起案」と表現する人がいますが、これは当授業では実務で法律文書を作成することを想定しているので答案ではなく起案というべきということで、この呼称が多用されることに起因するように思われます。
 
②使用教材
特に指定教材等はありません。
 
③事前準備と注意点等
 前期に行われる試験は特にそうですが、十分に知識も備わっていない状態で実務的なことをきかれるので誰もまともなことは書けないでしょう。浮足立っても仕方がないですし、これまで紹介したような問題集を普段から解いておく以上の特別な対策も不要だと思います。もっとも、最近の未修でも隠れ既修のような人が増えており、特に事例問題を解いた経験が無い人は早めに問題演習を始めておくことをおすすめします。
 
 
 
 以上です。長々と書き綴ってしまいましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
1年次後期は夏休みあたりに投稿できればと思います。