3年前期授業雑感 ②選択科目編

 前回に引き続き、こちらでは選択科目について詳しく紹介していきます。

 

 

 

民事弁護実務演習

 弁護士の先生と一緒に訴状や答弁書などを作る授業で、売買契約や請負などの民法上の重要な論点について要件事実を調べて訴状と答弁書を作成したり、消費者訴訟や会社訴訟に関する意見書、遺産分割協議書、競売申立書などの実務で頻繁に使う書類の作成方法を幅広く扱います。春休み中に全クラス共通の問題集が配布され、初回授業で各課題に対して1~2人の担当者を決めて起案します。
 1クラス15名前後の人数制限のもと10クラス開講しており、担当者が発表前週金曜までに起案を提出したらレジュメと参考起案が配布されるという流れになっています。それぞれ別の先生が担当しているため授業の進め方等も若干異なり、他のクラスでは授業前にレジュメと参考起案が配布されて担当者の報告後に講義と若干の問答が行われてたようですが、私のクラスでは基本的に担当者の発表もレジュメと参考起案の配布も無く、最初からクラスの全員で訴訟手続の流れや必要な条文と判例に関する問答や議論をがんがん行っていたので全員が事前に事案を読んで課題の解答を考えてくる必要がありました。もっとも、課題類似の裁判に関する実務でのエピソードや訴訟戦略についての話も多く、今まで勉強したことを実際に仕事で使うイメージを持つことができ非常に有益な授業内容になっていると思います。(余談ですが、私が原告側で起案したある課題の元ネタになった裁判では担当の先生が被告側の代理人として戦っていたうえに納得できない負け方をしたらしく冷や汗が出ました...)
 起案にあたっては当事者の言い分や事案の概要に加えて全部事項証明書や固定資産税評価証明書などの添付資料を読み込み、依頼者の要望に応えるように主張を考える必要があるほか、印紙代の細かい計算や裁判所提出書類の種類と部数の書式を根拠法令と合わせて調べなければならないので、全て自力でやろうとすると相当きつい授業になると思います。もっとも、課題により難易度が全く異なるので簡単そうなものを選択したり、休講などで頻繁に回が前後するため別クラスの人から参考起案等を見せてもらうなど、工夫次第で楽もできる授業だと思います(実は過去の課題を微修正して使いまわしているので前年度の起案例があればコピペして人名と数字いじると一瞬で起案が終わる凄まじい楽単に豹変するんですが...)。
 成績評価については任意提出も含め一人当たり5回以上起案を提出すれば単位が認定され、試験がなく他の科目への負担も少ないので非常におすすめな授業です。このほか、私のクラスでは担当のNSD先生主催で先輩弁護士との食事会があったり夏休み中に事務所見学会を開催していただいりしたので、履修登録の際には担当の先生が所属する事務所を調べてクラスを選ぶのもいいんじゃないかと思います。
 

倒産処理法1

 司法試験選択科目である倒産法の授業であり、前期の1では倒産法の全体像を概観したのちに破産法のうち法人破産を主に扱い、個人破産及び民事再生法等は後期の2で勉強することになります。この授業の特徴としてロースクール独自の科目ではなく学部と共同で開講されており、学部生と同じ資料を用いながら初歩的な理解を得ることを主眼にした講義が行われるので、学習経験のない人でも気兼ねなく履修できるのではないでしょうか。なお、共同授業なのもあってかローの授業にしては珍しく出欠要件も問答も無く、試験一発の純粋な講義形式です。
 百選以外に教科書などは特に指定されず任意のものを使用することができますが、レジュメが非常に詳細なので無理に基本書を買う必要はないように思います。また、授業範囲が法人破産だけでありストゥディアなら全部で100ページ程度しかなく最低限のインプットを簡単に終えることができるので、本格的に破産法を扱い始める第2~3回までに授業範囲を条文を引きつつ読んでおけば事前学習は充分でしょう。
 期末試験との関係では、私はストゥディアと百選を読んで司法試験の過去問を解き、判例六法に出題された判例や条文をマークするようにしていました。破産法は単に知識量を増やしても条文操作に慣れていないと事例問題が全く解けないため、最低限の基礎知識と考え方を勉強したら極力早めに条文を使う訓練に着手する必要がありますし、法人破産の問題は事例の処理方法や分析スキームがある程度決まっており、解答パターンのストックを増やすためにも早期から問題演習に取り組んで必要な知識はその都度仕入れる方が良いのではないかと思います。過去の期末試験でも司法試験で実際に出題された論点を簡略化した問題が出題されていますし、司法試験で選択する予定の人は普段どおり勉強していれば特別な対策は不要でしょう。
 例年の期末試験を見る限り、多少の違いはあれどオーソドックスな事例問題になっているようで、破産手続の開始前後の典型論点と終了時点の具体的な処理プロセスを条文を示しつつ答えさせるといった法人破産の全体像を正確に把握しているかを問うていると思われます。KSI先生の採点は少し甘めなようですが、いきなり破産法の論点を書くのではなく、まず民法上の法律関係を正確に指摘したうえで破産法が適用される結果どのような解釈問題が発生するのかを丁寧に説明する必要があるようで、それができれば論証部分で多少不正確なことを書いても安定して点数が付くように感じました。事例分析の方法と答案の書き方はアガルートの司法試験過去問解析講座の問題集で勉強していましたが、解説が丁寧で論証の百選へのリンクも充実しているので授業と期末試験との相性もかなり良く非常におすすめです。
 

労働法1

 完全オンラインの授業で、労働関係の成立から終了までと賃金、労働時間あたりを扱います。本来は労災や人権保障なども範囲に入っているのですが時間の都合で例年あまり扱えていないようで、今期は補論としてレジュメを配布して夏休みの自習に委ねることになっていました。
 担当されたUEMR先生は講義も非常に分かりやすいのですが、レジュメが本当に素晴らしいです。情報量が多い割に要所要所でしっかり要約されているのでスムーズに読み進められますし、事例が多用されており具体的なイメージが掴みやすいのも相まって他に何か文献を漁りまわることはほぼ無かったと思います。事前知識がほぼゼロだったので一応プレップを用意していましたが講義だけで充分スムーズに学習できたので結局使う必要がありませんでしたし、労働法選択者でないなら入門書や参考書の類は不要なんじゃないでしょうか。
 期末試験対策としては水町ほか事例演習労働法を使っていました。例年はしっかりした事例問題が1~2問出題されていましたが、今年度は細かく小問が分かれた作りに変わっていたうえに部分的に知識を問う一行問題のような出題もあり、司法試験過去問や問題集ばかりを勉強するよりはレジュメをしっかり読み込んで基礎的な理解を固めたり重要論点に関する判例・裁判例の変遷などを簡単に説明できるようにしておくと良いと思います。
 

環境法1

 前期の1では環境行政の基本原則と主要法令を概観し、環境訴訟は後期の2で扱います。要するに、環境法の総論的な解説と司法試験で使うことになる環境基本法や水濁法や廃掃法などを概観して法律の仕組みや用語を理解しようという授業ですね。かなりの分量になるため講義も削りに削って駆け足になった結果、最終的な試験範囲は環境基本法・アセス法・大防法・水汚法・土対法・廃掃法だけでした。それでも多かったので期末直前は死ぬほど大変でしたが...。
 授業は講義形式で、各回ごとに講義資料としてレジュメや図表に加えて予習指示書のようなものが配布されますが、特に問答がある訳ではなく基本的に担当のSMMR先生のお話を聞いてノートを取るだけです。扱う分量が多いのでメリハリをつけて学習するためのアドバイス的なものという位置づけになるでしょう。教科書は北村先生の環境法が指定され、適時加筆修正しつつ輪読会のような形で授業が進みます。このほか、媒体は何でもいいので環境法令をすぐ参照できるようにしておくよう指示されますが、デイリーには載っていないため紙媒体ではなくe-Govなどネットを利用している人が多かったと思います。私はメ○カリで過去の司法試験法文を購入して環境法のところだけ裁断して書き込みしつつ使っていました。
 期末試験については、授業で扱った法律の改正経緯や構造を説明させる問題と事例問題が出題されます。去年までは環境訴訟まで試験範囲だったので提起すべき訴訟の種類などを問うていましたが、今期からは司法試験の1問みたいな改正経緯説明と初見の法律を現場で分析して環境政策の類型を答える問題に変わりました。そのため、授業でも各法律の改正経緯に関する説明は一層注意深く聞く必要があるほか、総論部分で説明させる環境政策手法の種類と特徴に加えて具体的な法律のどの条項がそれを反映しているのかまでを意識的に学習すると良いのではないかと思います。採点は結構辛口で、講評でも明確に配点や評価基準と書くべき内容が決まっており、何かしら書けば点が来るようなものでは無いようです。
 
 最後に、これは授業でなく環境法という選択科目に対する愚痴になってしまうのですが、とにかく教材の選択肢が少ないです。問題集もなければ一問一答のように知識確認ができる教材も無く、さらに頻繁に改正が入るので対応した参考書も選択肢が限られているなど、私のように教科書を熟読するだけでは何も頭に残らない人間にとってはかなり苦しい科目でした。問題集は司法試験の過去問を使うくらいしかないのですが、比較的安価に入手できる辰巳の一冊本(それでも4800円)は古い過去問の解答に改正が反映されていなかったり条文の指摘が不正確だったりと使いにくく、予備校講座に課金するほどの余裕も無かったこともあって問題集利用の勉強は諦めざるを得ませんでした。また、北村先生の教科書が個人的に肌に合わなかったのも辛かったです。大半の人が利用しており定評ある素晴らしい教科書だとは思いますが、記述が法律論というより政策論的(ときおり情緒的)で分量が多く、先生ご自身の見解と法令の事実的な説明が混在しており読み取りにくく感じたことも相まって、他の科目で解釈論を詰めていると頭の切り替えが難しく余計に話が頭に入ってきませんでした。
 そこで、途中から教科書を大塚先生の環境法BASICに切り替えて事なきを得ました。同書は条文とその趣旨の解説から用語の定義という記述の流れが綺麗にまとまっており簡易的なコンメンタールを読む感覚で利用できるほか、改正経緯を端的に指摘したあと新旧対照表を用いてまとめており視覚的に条文の違いを確認でき、これら全体のサマリーとして法令の重要項目を章の最後数ページに要約されているのも復習に便利だったと思います。そして何より、要所要所でQという一行問題的な問いを立てて続く記述が解答になっているのが非常に助かりました。司法試験で過去に問われた論点だったり改正の重要な変更点や法令同士の仕組みの異同などの試験で問われやすい部分をピックアップして問題と解説の形にしてくれているため事実上問題集の代わりとして活用でき、おかげで単に読み込むのとは違う頭の使い方で学習が出来てかなり理解が深まったと思います。このほか、見た目は分厚いものの実際は環境訴訟を除く環境法1の範囲に関する部分は200と数十ページ程度に圧縮されており、直前期に試験範囲を短時間で復習できるところもおすすめポイントです。
 

企業法務1

 隔週開催で2限連続の授業で、長年法務部で企業法務を担当されていたSMOK先生が内部統制システム構築や株主総会運営の実務的な問題について解説したり、現役法務部員や役員の方をゲストスピーカーに招いて講演をしたりします。パワポで資料が配布される講義形式で、課題や出欠などはなく試験のみの成績評価です。
 授業範囲だけならそれなりに広く資料も膨大ですが、期末試験については内部統制システムなどと取締役の任務懈怠責任に限定されるようなので、試験対策として勉強すべき量は非常に少なくなりました。企業法務の実務的なことよりは商法総合で習った会社法の知識を使って近年問題になっている国際的な法的紛争の解決を試みたり、法務部員として健全な企業の運営を実現するために出来ることを考えるといったコンセプトの試験になっているように思います。
 特に教科書などはなく、レジュメ以外では期末試験対策に商法総合で使っていたテキストなどを参照した程度でした。
 

伝統中国の法と裁判

 古代から清代までの間で中国の法制度の成り立ちや変遷、統治制度の考え方などを学ぶ授業です。授業は講義形式で、問答や出席要件もない試験一発評価になっています。よく楽単といわれるようですが、個人的にはあまり楽には感じなかったです。
 授業の資料として2枚程度のレジュメや数百年前実際に使われていた法典の写し等が配布されます。レジュメは用語の羅列や漢文の現代語訳が引用されている程度の簡素な作りであり、講義をとおして当時の価値観などの時代背景を踏まえて敷衍した解説を聞いていくと意味が分かるようになっているので、ちゃんと授業を受けてノートを取らないとあまり使い物にならないと思います。もっとも、それ以外に参考文献にあたったり特別な準備をしないと話が理解できないようなものでは無く、期末試験の問題も基本的に授業内で扱ったことを説明すればよいため、授業を真面目に受けるだけで一応の勉強は完結するという意味では楽な授業かもしれません。
 試験の内容は、例年1~2題の一行問題が出題されます。授業ノートを復習しておけば普通に解けると思いますが、世界史の知識があるとより書きやすいかもなと思いました。私は特に世界史に詳しいわけでもなく、帝制下の統治観をきかれてもよくわからなかったので蒼天航路で読んだ曹操が漢の献帝と天道の何たるかをごちゃごちゃ語ってたくだりをそれっぽく修正して法の役割と絡めて書いたら単位が来ました。やはり楽単では?
 
 記事は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました!