未修1年次の授業紹介と入学までに準備しておくべきこと②【刑法の基礎1・刑事訴訟法の基礎】

 前回に引き続き、未修1年次の授業紹介と入学までに準備しておくべきことについて、今回は刑法と刑事訴訟法について書いていきたいと思います。

 

 

刑法の基礎1
①授業の形式と内容
 前期は刑法のうち総論部分を扱います。基本的に講義形式で進みますが、先生により簡単な問答が行われます。中には座席移動する場合もあるようです。授業資料も担当する先生によりだいぶ違うようで、私が履修したときは主要な学説と大量の判例をまとめたレジュメが配布されました。講義はこれをもとに進みますが、学説を深掘りするようなものではなく、判例の解説をとおして基礎的な概念を説明し、議論がある論点を検討する範囲で学説の話が出てきます。情報量は多いですが、ある問題に対して考え得る複数の解決方法を提示したうえで、自分の立つ考え方にマッチしたものを選択して検討して欲しいという意図だと思われ、特定の考えを押し付けることのない学生の自由度が高い授業だったと思います。
 他の先生の場合は全く違うタイプのレジュメが配布され、講義内容も基礎理論を越えて刑事政策に近い議論や憲法との隣接領域で生じている先端的な問題を解説される先生もいらっしゃいます。
 
 
②使用教材
・指定教材等
 私が履修した時は基本刑法が指定されていましたが、別の先生だと山口厚先生の刑法(通称青本)や、島伸一ほか『たのしい刑法総論』を指定するようです。同書は入門書+α的な内容で章末に1~3題の事例問題が設けられており、弁護士が作成した答案例が付されています。余談ですが、同書で多用されるイラストはこちらを指定される先生が描かれています。アガルートの工藤北斗先生いわく「カワイさは120点」とのこと。
 判例集は、判例ラクティス刑法総論(通称判プラ)か、判例刑法総論が指定されると思います。このうち判例刑法総論は掲載数こそ最大クラスですが一個あたりの記述が短いほか判旨のみの記述で事例が載っていないものもありますし、解説もついていません。一方、判例ラクティス刑法総論は判旨と解説のほか要約された事実と原審の判断まで書かれています。解説も、あくまでその判例を正確に理解することに徹しており、本論と関係ない学説の話が延々と続くようなことはありません。判例集としては百選などと比べ物にならないほど非常にクオリティが高く、1年次のみならず既修合流後のより詳細な2年次の授業でも大活躍しました。
 未修1年次では本格的な基本書はあまり使うこともない(というか使うべきではない)と思いますが、井田良先生の講義刑法学総論か山口厚先生の刑法総論あたりがメジャーかと思います。
 
・授業に役立ったもの
 授業を受けるにあたってはアガルートの1問1答刑法と、刑法総論判例50! (START UP)が特に有用でした。
 授業を一切無視するなら別論、刑法では初学者向けの授業でも様々な学説や見解が紹介されるので結局答案ではどれを書けばいいのかが分からなくなりやすく、ある程度見切りをつけないと復習量も膨大になってしまいます。酷い時には用語一つ取ってもいくつも定義があったり要件が違ったり、ある概念の体系的な位置付けが説により異なるため検討順序が入れ替わり答案構成からして違ってくるなど、インプットどころではないという初学者泣かせなポイントがいくつもあります。この点、1問1答は判例通説に沿って用語の定義や構成要件をまとめてくれており、迷ったときはひとまずこれを書けば大丈夫という一つの解答を提示してくれるので試験対策として大変有用でした。諸概念の体系的な位置付けに関しても、司法試験の傾向を踏まえて無難な理解に基づき答案で再現できる程度の理由付けとともに記載されており、答案付きの論文問題集と併用し、考慮すべきことと実際に書くべきことを峻別したうえで同書に乗っかっておけば試験で酷い点数をつけられることもないであろうと思います。また、シンプルな問いに端的に答えるという記述形式なので論証集より手軽に重要事項の確認と復習ができ大変有用でした。やもすれば、これと問題集だけで期末は乗り切れるんじゃないでしょうか。
 次に、判例ラクティス刑法総論は大変な良書ですが、完全初学者や刑法が苦手な人が使いこなすのは難しいように思えるので、そうした人には刑法総論判例50!をおすすめします。同書は要約した事例と判旨の概要と解説というオーソドックスな形式ですが、重要判例を厳選してどの教科書にも登場するような最低限押さえるべき判例が揃っている点で後述の入門書との相性も良いほか、判例を読み解く上で特に重要ポイントを示してくれるため、初歩的な理解の確認の他にも刑法判例を読む際に結局何が言いたいのか分からないという事態を回避するためにも有用です。授業では多くの判例を扱うものの、深く理解して試験で使いこなせるようにすべき判例は全体から見ればごく僅かですので、学習すべき優先順位を把握するうえでも同書のように題材を厳選した教材を活用することが負担を軽減する助けになってくれると思います。
 
③事前準備と注意点等
・授業準備としての予備校講座受講の重要性
 刑法も他科目と同様に問題集で答案の書き方と論証を押さえておくべきであり、可能であれば極力予備校の入門講座と論文対策講座を受講しておくべきだと思います。特に論文対策は入学前に全て終わらせられなくても授業と並行して受講してもいいでしょう。刑法の総論部分は特に様々な学説が扱われ混乱しやすいうえに判例・裁判例も結論がまちまちなことが多く、何かしら軸になる判断基準が備わってないと自分なりの理論を考えるどころか情報の取捨選択すら困難になります。他科目にも言えることですが、刑法は特に座学と実際の試験で要求されるものとの乖離が酷く大きいので、授業と問題を解くための勉強はもはや完全に別物だと考えてください。もちろん、授業を有効活用することが出来れば試験対策としても大きな強みになりますし、私自身もその恩恵にあずかることがありましたが、授業に食らいつき論証の修正などを通して自分の考えを洗練していくには、既に処理手順を押さえて事例問題を自力で解けるようになっていることが大前提です。むしろ、授業を最大限活用するためにも、インプットの時点で試験攻略を前提とした予備校の入門講座等で基礎を固めておく必要性が特に高いと思います。重要なのは、予備校だけ・授業だけが唯一の正解だと決めつけて極端な勉強に走らないことです。
 
・自力で準備する場合の使用教材等
 予備校の講座を利用しない場合、市販の問題集で対処することになりますが、これもアガルートの実況論文講義か伊藤塾の新赤本で自分に合うものを選ぶとよいでしょう。特に実況論文講義の刑法は全科目の中でも指折りのクオリティで、主要論点以外は省略されがちな個々の構成要件を先出しにした丁寧な答案構成を用いており、初学者への配慮が行き届いたものとなっています。
 型はいいから論点処理や答案の書き方を解説して欲しいというなら徹底チェック刑法か十河先生の刑法事例演習がありますが、特に後者は一通り全範囲を勉強してからでないと活用するのは難しいと思います。徹底チェック刑法は、一番最初の章で答案の書き方の解説と簡易な答案例が付いていますが、これ以降の各論点の解説に関しては記述が非常に端的なので初学者にとっては少々分かりにくいこともあるように思え、事前学習ではなく授業と並行して知識確認や復習用のまとめノート作りに使うとよいのではないでしょうか。
 入門講義に代わる入門書としてはストゥディア刑法総論NBS刑法総論、井田良先生の入門刑法学が薄くて分かりやすいと思いますが、大半の人が使うであろう基本刑法が既に分かりやすいと感じるようなら最初からこれでいけば経済的だろうと思います。ただ、刑法がアレルギー起こすくらい本当に苦手という場合は上記の入門書でも厳しいと思うので、和田俊憲先生の『どこでも刑法#総論』、DAILY法学選書『ピンポイント刑法』が非常に分かりやすく手帳サイズで抵抗感なく読み進められるのでおすすめです。
 刑法のように条文数が少ない科目ほど解釈の幅が広く様々な理解の仕方があり、こうした科目を攻略するうえで論点以前の超基礎的な内容を盤石にしておくことが最優先だと思いますので、苦手意識を持っている人ほど超入門的なやさしい書籍を何回も読み返して問題演習を繰り返すことを強く推奨します。まかり間違っても現段階で体系書や悩みどころ等に手を広げないようにしましょう。急がなくても2回生以降で嫌というほど読み込むことになりますので...。
 
 
 
①授業の形式と内容
 前期では刑事訴訟法の基礎的な部分について捜査法から証拠法、裁判と上訴手続まで全分野を一通り学習します。論点を深掘りするのではなく、手続の仕組みや基本的な原則を浅く広く取り扱い、本格的な論点の考察は2年次になってから始まります。
 授業は基本的に講義形式で、課題をもとに問答が行われることもあるようですが、私が履修したときは問答は行われず最後まで講義でした。例年担当される先生はリーガルクエス刑事訴訟法の執筆者のお一人であり、特に証拠法は非常に分かりやすい授業をされます。ただ、第一印象としては真面目で厳しそうな先生にみえ、講義が淡々と進むことも相まって近寄りがたい雰囲気がありますが、実際は非常に優しく質問対応も学生が納得するまでしっかり付き合ってくださるので、疑問があれば積極的にお話を伺いに行くことをおすすめします。授業も学生が具体的なイメージを持ちやすいよう配慮してくれることもあり、中でも伝聞証拠に関する精神異常を推認させる証言の例を古今多種多様な基本書を渉猟して集約した支離滅裂発言集を配布してくれたのは(滅多に見られない配布時のドヤ顔を含め)伝説となっています。
 レジュメは手続きの概要と根拠条文、関連判例などが詳細にまとめられたものとなっており、資料としてパワーポイントの図表や補足説明を加えたものが配布され、授業後には復習課題や練習問題が出題されました。このうち、練習問題は2年次で指定教材となるケースブック刑訴の基礎的な設問がもとになっており、翌週に答案例が公開されます。簡単な事例をもとに初歩的な知識を確認したり問題を解く練習にもなるため非常に便利で、毎週しっかりストックしておくと試験直前の復習が楽になりました。一方、レジュメは詳細ですが講義を前提とした情報の羅列的な側面が否めず、これだけを読んでも何が何だか全く分からないので、授業時以外だと使いどころが少々難しいように思います。ある程度勉強が進んで知識量が増えた段階での整理には有効ではないでしょうか。
 
 
②使用教材
・指定教材等
 教科書はリーガルクエス刑事訴訟法が指定される他、入学前に三井酒巻『入門刑事手続法』を授業までに必ず読んでおくよう指示されました。
 リークエ刑訴は捜査法と証拠法が特に分かりやすく情報量も授業には十分なのもあって使用してる人が多かったと思います。もっとも、初学者には少々難しいうえに一部極めて記述が難解なところもあり、今では基本刑事訴訟法Ⅱを利用する人が大半なのではないでしょうか。
 また、入門刑事手続法は刑訴の全体的な仕組みと手続きの流れを丁寧に解説している良書ではありますが、基礎概念を分かりやすく説明するといった入門書的なものではないと思います(著者のお一人である酒巻先生は同書を書き上げるのに大変な苦労をされたと過去に語られていますが分からんものは分からんのです...)。同様の趣旨の本であれば基本刑事訴訟法Ⅰ手続理解編があります。平易な表現なうえにケースが多様され具体的なイメージを掴みやすく、予備試験の短答過去問(特に保釈・逮捕勾留の期間制限等)と同様の問題が解説されていることもあって、Ⅱ論点理解編とあわせて教科書はこの2冊で済ませるのも一つの手でしょう。
 
・授業で役立ったもの
 刑法と同様にアガルートの1問1答が役立ちました。刑法とは異なり学説の乱立のため何が正解か不明といったことは未修の刑訴ではあまり起こりませんが、前期だけで刑訴全範囲を通しで学習するので情報量が非常に多くなるという問題がありますし、判例がどれも長くて全て読み返している暇などありませんので、何かしらまとめておかないと復習が非常に困難になります。この点、同書は用語の定義や判例の要点が端的にまとまっており情報量の割に非常に薄くて周回しやすいほか、膨大な情報の中から必ず押さえるべき重要知識をピックアップした上で問答形式により簡単に定着度の確認もできることから、復習の効率化にも役立ちます。なお、同様のことは市販の論証集でも可能だと思いますので自分に合った方を使うと良いでしょうが、刑訴全範囲を浅く広く学ぶことから論点の深い理解より用語の定義や根拠条文を確実に押さえることの優先順位が高いため、どちらかといえば1問1答の方が使い勝手が良いかもしれません。
 次に、判例集は特に指定されていないので何を使うかは自由ですが、正直何を使うべきか困りものです。百選を使う人が多かったと思いますが、初学者には少々難しいうえに解説の差も懸念されますし、川出先生の判例講座は単著かつ非常に分かりやすいのですが、未修にはいかんせん情報過多で活用が難しいように思います。私は一応川出先生の判例講座を参照していましたが、授業レジュメに重要判例の事案と判旨が記載されているのもあって同書は必須ではないのかなと感じました。この点、基本刑訴Ⅱはケースが重要判例を簡略化したものであり、その論点が出題された場合の判旨に沿った事案処理を学べることもあって、極めて簡易ながら判例学習をしたのと同様の学習効果を得ることができると思われます。刑訴は事実関係の分析にも当てはめ時の事実の扱い方を学ぶにも判例学習が極めて重要ですので、判例集を一切使わないのはさすがにまずいと思うものの、ひとまずそれは2年次にまわし、1年次は基本刑訴Ⅱでしのぐという手もありかと思います。可能ならば何かしらの判例集を手元に置き、必要に応じて詳細な事実関係を調べられるようにしておくとよいでしょう。
 
③事前準備と注意点等
・予備校を利用した授業の準備
 可能であれば予備校の基礎講座と論文対策講座を受講しておくとよいと思います。事前に入門刑事手続法の通読が指定されていたり基本刑訴が手続理解と論点理解にわかれているように、刑事訴訟法では刑事手続きの流れと全体像を把握することが論点の正確な理解のために重要な一方、事例問題では手続の知識そのものではなく、その理解を前提に具体的な事例に即して所定の手続が適切に行われているか・ある措置が法定の手続の許容範囲か否かの検討することがが論点として問われます。そして、他科目と同様に事例問題を解くにあたっては検討手順の型がある一方で、講義では論文試験にはまず出ないような細かい事柄まで扱うほか、事例問題の事例処理まで扱う訳ではないため、どうしても問題演習は自力で進めるほかありません。そのため、前もって試験対策を念頭に置いたインプットと、答案例付きの問題集を用いた学習が必要な点は他科目と同様です。私はアガルートの重問刑訴を利用していましたが、こちらは1年次はもちろん、授業内容を加筆修正して集約すれば2年次でも充分期末試験対策に活躍してくれました。
 
・自力で準備する場合の使用教材等
 予備校を利用しない場合、他科目と同様に市販の問題集では実況論文講義や新赤本がおすすめです。このほか、峰ひろみ先生の『刑事訴訟法演習』や粟田知穂先生の『エクササイズ刑事訴訟法』は捜査法から証拠法まで横断的に論点を織り交ぜた司法試験に近い事例を基に事実評価を訓練するのに大変有用ですが、初学者には少々難しいと思われます。もっとも、峰先生の刑訴演習は冒頭にある事例問題の解き方の解説は他の問題集では暗黙の了解とされているようなことを言語化して説明してくれており、これから問題演習を進める人には非常に有益な内容だと思われますので、ここだけでも図書館でコピーするなどしておくとよいでしょう。特に、問題提起の重要性や論点とは何なのかという論考は刑訴に限らず全ての科目にも役立つと思います。
 次に、入門書については特にこだわりや強い苦手意識が無い限り基本刑訴Ⅱから読み始めて良いと思います。この他では、池田・笹倉『ストゥディア刑事訴訟法』、緑大輔『刑事訴訟法入門』、小木曽綾『条文で学ぶ刑事訴訟法』あたりがおすすめです。
 ストゥディア刑訴は薄めですが内容は理論的な説明をしっかりとしており意外と高度な内容もあります。他科目のように初学者でもさくさく読み始められる入門書というよりは、基本書等の行間を埋めるための副読本として使うのがいいように思います。特に苦手意識のある人が他のストゥディアと同じような感覚で手に取ると少々ギャップに驚くかもしれません。
 刑訴入門について、基本刑訴の執筆者でもある緑先生による単著の入門書とされていますが、どちらかというと初学者向けの論点解説書に近いと思います。まず事例が提示され、平野説や団藤説などの古典典的な議論を紹介したうえで歴史的な議論の推移を踏まえた解説が平易な言葉でなされています。具体的な手続の細かい解説はあまりなく、論点を理解するのに必要な限りで問題となる条文や制度を取り上げ、それらの趣旨からどのような解釈論が導かれるかの解説が主たる内容となっていますので、初学者でも重要論点を深く正確に理解することに役立つでしょう。
 小木曽先生の条文で学ぶ刑訴は、事例処理や概念の説明ではなく、条文の理解そのものに重きを置いている特徴があります。具体的には、主要な論点に関して、まず手続の根拠となる条文や関連規定を提示したうえで、その趣旨や文言の定義、争点となった判例ではどのような理解が示されたか、といった解説がされています。しかもストゥディア程度の薄さなので通読も容易であり、入門レベルに必要な限度に圧縮したコンメンタールみたいなものといえばよいでしょうか。そもそも刑訴法は条文が非常に読みにくいうえに索引がろくに機能していないのに関連規定が各所に散らばっているため、とにかく六法を引くのが大変なのですが、同書は判例はもとより考え得る条文解釈のパターンを提示してくれることに加え、ある論点を検討するのに必要な条文を網羅的に提示してくれるため、条文の解釈のみならず操作を適切にできるようにするためにも有益でした。捜査法も素晴らしいですが、伝聞証拠のうち弾劾証拠に関しては判例の事例を微妙にずらした細かい条文解釈についても言及されており、しかもストゥディアよりも分かりやすい解説だったのもあって入門レベルにとどまらず基本刑訴や重問を解き進めるうえでも参考になるところが大きかった一冊です。
 
 
 今回はここまでにさせていただきます。未修前期の授業紹介は次回が最後になる予定で、人権の基礎理論と法律基礎科目演習を紹介したいと思います。