未修1年次の授業紹介と入学までに準備しておくべきこと①【財産法の基礎1・家族法の基礎】

 ブログ開設から時間が空いてしまい申し訳ありません...。地獄のような2回後期も終了ということで、やっと記事を書く時間を確保できました。今回は未修クラス1年次の前期に開講される授業について、必修である基礎科目の紹介と入学までの準備について書いていきたいと思います。
 これにあたり、各科目について①授業の形式と内容、②使用教材、③事前準備と注意点等、といった順序で進めていきます。①は授業の進行方法や予習課題のほか受講上の注意点など、②は主に指定される教科書類と参考書、それらのうち実際に使ったものについて、③は授業以外の学習や、その他の重要事項について、が主な内容です。
 なお、私が履修したときと先生が異なっている科目もあれば、同じでも授業内容や形式が変わることもあるので、あくまでロースクールの授業の雰囲気と事前に準備すべきことを考える参考程度にしていただければと思います。
 
 
 
 
財産法の基礎1
①授業の形式と内容
 民法の総則と物権・担保物権を扱います。事前に課題が与えられ、授業ではソクラテスメソッドにより先生が学生に質問して課題の問いを答えていく形式で進行します。担当される先生により内容は変わりますが、私が授業を受けたときは、総則は基礎知識の解説のあとに短~中程度の長さの事例を用いた正誤問題や穴埋め問題が出題され、物権担保物権でも基礎知識の解説のあとに1~2行の短い質問文が付されており、これらを教科書や判例集を使って答えを考えていくことが主な予習の内容でした。
 授業中の問答がどの程度細いかは先生によります。私のときは、物権担保物権では定義の確認や設問の答えと理由、判例の要旨などを確認的に答える程度で、間違った答えを言ってしまっても正解に誘導してくれるような問いを出してくれました。おそらく来年度は私の時と先生が変わると思われますので、形式的なことはこの程度に留めておきます。
 一方、総則は全授業の中で最も厳しいものになりました(恐らく来年度も私の時と同じ先生です)。事例を用いた正誤問題は、単に○×を答えれば良いのではなく、その理由として問題になる民法上の権利は何か、根拠条文、法律要件とそれらの文言の定義などを適切な順序で解答しないといけません。法的三段論法に則り事例に即した法律論を組み立てるうえではこのような論理構成をすることはむしろ通常であり、法的に事例を分析して条文を適用し問題を解決するというプロセスを理解するためにも非常に重要かつ超基礎的な内容なのですが、今まで法律を学んだことが無い人はもちろん、他大ロー既修合格者であっても厳密な論理的説明を要求されるので、中途半端にそれっぽいキーワードを並べるだけでは延々と厳しい問答が続くことになるでしょう。
 とはいえ、担当された先生は非常に教育熱心で、授業や配布する教材には様々な教育的配慮が盛り込まれています。正誤問題も、条文を当てはめれば簡単に解ける問題のほか、重要判例や旧司法試験の短答式試験の問題と類似する練られた事例を問答で深く議論することで、単純な暗記ではなく民法の原理的な理解を深めることを通して膨大な民法の知識を”忘れても必ず思い出せるようにする”ためのエッセンスが詰まったものになっています。穴埋め問題は時間的な制約で授業で直接扱うことが次第に少なくなっていきますが、全くヒントの無い正誤問題と異なり適切な思考プロセスで法的な問題を解決するためのお手本として文章が考えられているので、期末試験等で事例問題を解く際の答案の参考としても活用することが出来ます。ただし、非常に緻密かつ網羅的な内容であり、およそ実際の試験で未修の学生が書けるレベルの文章ではないので、丸暗記して答案でコピペしようとは考えない方が良いです。あくまで法的な思考に沿った文章を書く際の参考例として活用しましょう。
 
 
②使用教材
 教科書としては、総則がストゥディア民法1総則、物権担保物権は安永先生の講義物権担保物権法がそれぞれ指定されました。先生により教科書が変わるので入学前の書類などで確認しておくべきですが、これでなくても好きな教科書を使用して大丈夫です。現に、民法の基礎を使ってる人が多かったと思います。参考書としては総則は山本敬三先生の民法講義1総則、佐久間毅先生の民法の基礎1総則、物権担保物権は佐久間先生の民法の基礎2物権、松岡久和先生の物権・担保物権、道垣内弘人先生の担保物権あたりが挙げられると思います。
 実際にどの程度これらを参照したかについて、まず総則は民法講義1総則は予習課題の解答を考えるうえで必須でした。こちらは改正に対応していないうえに重厚で、民法の基礎がある今ではあまり手に取られることも少ないと思われますが、授業で扱う問題意識の大元になっており授業内容の多く(場合によっては課題の答えそのもの)が記載されており、通読は困難でも参照することは多くなるでしょう。また、ストゥディアは情報量だけでは授業に全く足りておらず辞書的な用途には向きませんが、民法の問題を考えるうえで必要な思考方法(先生の言うところのスキーム)を習得する上では必須といってよく、知識を使うための学習をするためには最適な教材だと考えています。ちなみに、山敬先生曰くこれ完璧にすれば司法試験くらい余裕だそうです。私も(問題演習ちゃんとすれば)兼ね同意見ですね。
 このほか、択一六法が予習では大活躍しました。条文とその趣旨、過去に司法試験で出題された論点に関する簡易な解説が付されており、予習で求められる情報を集めるのに有用だったことに加え、元から充分な情報量なうえに書き込むことで情報の一元化にも役立ちます。民法に限らず、法律は条文から全て始まりますので、適用される具体的な場面や条文相互の関係を把握する上で同書は非常に重宝します。下手な基本書を読むよりこれを徹底的に使う方が効率的でしょう。ただ、当然試験では通常の六法を使用するので、ヒントが無くても自力で条文を引けるよう、択一六法だけでデイリーやポケ六を使わないといったことが無いようにしましょう。
 物権担保物権に関しては、どうも安永が合わなかったので日評ベーシックシリーズ(通称NBS)物権法と担保物権法を使用しました。薄い上に非常に分かりやすく、授業で扱うことも大抵は書いてあったので、サブ教材に上記の教科書か参考書を各一冊用意しておけばこれだけで充分乗り切れました。今だとストゥディア担保物権があるので、物権だけNBSでいいかもしれません。
 ここで、佐久間先生の民法の基礎(総則・物権)については、多くの人が利用しており分かりやすいのでおすすめですが、あくまで私個人の経験では上記のように総則は民法講義の方が必要な情報が多く、物権も基本的にNBSの情報量で充分で民法の基礎までは必須ではなかったので、これがないとやっていけないということはないのではないでしょうか。ストゥディア等の入門書で理解のコアになる部分を押さえ、それ以上はいっそ辞書的に情報量が多い本を使うといったスタイルでも大丈夫だと思います。
 
 
③事前準備と注意点等
・授業の準備
 指定教材に関する事前準備としては、まずはストゥディアを何回も読み込んでおきましょう。何も準備しないと確実に詰みます。物権もとりあえずNBSを読み込むことでいいと思いますが、まずは総則から着手するのをおすすめします。民法全体の入門書として道垣内先生のリーガルベイシスが指定されるかもしれませんが、ストゥディア優先かなと思います。いい本なんですけどね。
 
・授業外で必要な準備学習について
 次に、これ以外の学習について。いろいろと書きましたが、民法に限らずロースクールの授業を活用するにも生き残っていくにも絶対必要なのは問題演習です。特に、解答例付きの論文問題集は必ず使用してください。というのも、ロースクールの成績は僅かな平常点を除き期末試験一発で決まりますが、実際に答案に書けないことは評価の仕様がありません。更に、法律問題の答案は法的三段論法をはじめ守るべき記述のルールや作法が多く、これに沿わない答案はそれだけで低い評価がつけられかねません。にもかかわらずロースクールでは基本的に答案の書き方の指導は行われず(というか制度上出来ない)、仮に先生に「答案の書き方を教えてください」と質問に行ってもまず答えてはくれないでしょう。色々と根深い理由があるのですがひとまず置いておくとして、こればかりは自力でなんとかするしかありません。答案を書いたり問題を解く練習を充分に行わず基本書の読み込みだけの学習になってしまうことが未修者が授業についていけなかったりリタイアする最たる原因であり、また、予習や授業内容もそうした法的思考に基づき知識をアウトプットできることが前提になっているので、既に法律の試験を何度も経験してたり予備校の入門講座で一通り学んでいるような事情が無い限り、教科書を読み込む前に問題演習を徹底的にやっておくのが喫緊の課題といっていいと思います。
 
・教材と具体的な使用方法
 まず予備校の論文講座をとるのが最も手っ取り早いです。私もアガルートの重要問題習得講座の問題集(通称重問)を使用していましたが、網羅性が高いうえに授業や期末試験と問題意識が共通するところが多く、全く同じような問題が出題されることもあるので最適だと思います。もちろん、伊藤塾などを利用している人もおり、自分に合ったものを選択するといいでしょう。
 次に、金銭的な理由などで予備校の利用が難しい場合は市販の論文問題集を利用しましょう。おすすめはアガルートの実況論文講義か伊藤塾の通称新赤本です。辰己のえんしゅう本でもいいと思います。スタンダード100は細かい論点も掲載され便利ですが未修には少々オーバースペックに思われ、どうしても気になる論点だけ確認する程度にした方が良いかと思います。なお2回生以降では司法試験の過去問が掲載されているので活躍してくれました。
 いずれにしても重要なのは答案例が付属していることであり、解説だけの演習書は今の段階では控えるべきです。これは問題集の使い方が理由で、上記の問題集は最初から自力で全て解くのではなく、まず答えを見るなどして答案を丸ごと覚えてしまい、どのような事例で何を書くべきかを機械的にインプットしてしまいます。資格試験対策としてはまだしも法律学習として答案丸暗記は邪道といえばそうなのですが、まだ基礎知識が定着していない段階で最初から自力で考えるのは無理がありますし、先述のように普段の授業からして答案の作法と同様の思考が要求されるにもかかわらず授業で訓練する機会はありません。また、教科書や授業で扱ったことを全て答案に書くことは不可能であり、それらを短くまとめ、あるいは事例に即して取捨選択する必要がありますが、それを限られた時間内に重い予習と並行して自力で行うのは困難を極めます。まして法律学習を始めて日が浅い学生が行ったとしても適切なものが出来上がることは一部の天才を除きまずないでしょう。そのため、最終的には知識を修正するとして、まずはテンプレートを押さえるという趣旨で問題集の答案丸暗記が必要だと考えています。
 予備校の答案は不正確でローの試験で書くと減点されたり酷い目に遭うのではないかと不安になり基本書べったりになってしまう(私もそうでした)こともあると思いますが、そもそもその不正確な答案すら書けないのが大半です。また最近は未修の人でも既に予備校で基礎講座を修了していたり問題集を何周もしている人、中には他大ロー既習に合格している人が増えており、猶更こうした問題演習をしていないと差をつけられてしまうと思われます。
 私が使用教材に入門書を多く推挙しているのもこうした事情からで、問題集を解くために最低限の知識を素早くインプットするのに薄めの入門書は最適です。特にストゥディア民法は監修の山本先生が言葉を尽くして行間を埋め、暗黙の了解を言語化してくれているので、細かいことは問題集で機械的に覚えつつ深く理解すべき事は同書で対処することができ、重厚な基本書を読み込まなくても上手にスタートダッシュをきることができると思います。もちろん、ロースクールではこれ以上の学習も必要なので、あくまでそうした発展的な学習の土台を作り、今後の学習をスムーズに進めるための準備としてのものですので注意してください。
 
 
 
家族法の基礎
①授業の形式
 この授業では親族法と相続法を扱います。基本的に講義形式で、時折判例について事実の概要と決定要旨について問答が行われます。担当の先生が頻繁に変わるようなので、年により授業の進行方法などが変わりやすいようです。もっとも、授業内容自体は法科大学院のカリキュラムに沿ったものでしょうし、当然どの先生も家族法をご専門にされているので神経質にならなくてもいいでしょう。先生にもよりますが、他の授業が大変なことから問答や課題の負担もそこまで重くはなく、特に問題が配布されない限り教科書と扱う判例を読み込んで準備すれば充分だと思います。
 扱う範囲のうち、親族法分野では代理など一部総則とも関連する重要論点もあり、相乗効果が望めるでしょう。また、相続法は物権と関連する重要論点が多いほか司法試験短答で頻出の分野であり、特に細かい相続分の計算などは独学では難しいところですので授業が活躍してくれると思います。ただ、計算については授業課題や期末試験でも出題されますが、普段の穏やかな授業の雰囲気に反して本格的な問題だったりするので油断してると痛い目を見ることになり注意が必要です。
 
 
②使用教材
 指定教科書は、リーガルクエスト親族相続法で、参考書に潮見先生の詳解相続法が挙げられていました。ただ、リークエはだいたい毎年指定教科書になっていると思いますが、それ以外は先生によりかなり変わってくると思うので注意が必要です。
 実際に参照したものについては、周囲はリークエを真面目に読んでいる人が多かったと思いますが、私はNBS家族法を主に使用し、択一六法を必要に応じて参照していました。判例集は短答対策も兼ねて百選で良いと思いますが、ごく短くなら択一六法にも載っています。
 NBS家族法は薄めの入門書ですが、非常に分かりやすく情報量は授業にも十分対応できる分量だったと思いますし、リークエをじっくり読んでる時間がなかったのもあり結局これと択一六法と後述の教材だけで期末を乗り切ることになりました。ただ、調べものには向かず、相続分の計算問題も典型的なものにとどめてある一方でリークエは本格的な相続分の計算問題が掲載されているほか、授業でもリークエを参照するのが前提なこともあるので、NBSだけで大丈夫とまでは断言できないのでご注意ください。
 
 
③事前準備と注意点等
 これといった事前準備は必要なく、NBS家族法を読み込むほか余裕があれば司法試験短答の過去問で家族法分野のものを解くと良いと思います。
 家族法分野は単品で司法試験に出題されることがほぼなく、問題集でもあまり扱われていない分野なので答案丸暗記のような戦術がとりにくいという難点があります。また、問題集に掲載されている問題も複合問題がメインで初学者段階では難しすぎて参考にならないことも多いです。そのため、基礎的な知識を基に六法を自力で引き使いこなすというオーソドックスな対処法が学習の中心になると思われます。入学後に期末試験の過去問を早めに入手して論文形式の試験に慣れておきましょう。
 私は趣旨規範ハンドブックを論点の確認用とまとめノート代わりに書き込みをして対応しましたが、これが期末試験対策には有効だったと思います。そもそも家族法分野は論点らしい論点が目立たないので、メリハリをつけた学習が難しく、のっぺりと知識を概観するような学習になってしまいがちでした。また、短答過去問を使うのも良いですが、授業対策としては細かすぎるうえに事例問題そのものではないので計算問題の練習くらいしか有効に活用するのは難しかったです。この点、趣旨規範ハンドブックは家族法分野でも市販の論証集より網羅性が高く、論文問題として出題しやすいものをピックアップして掲載しているため、ある程度はメリハリをつけた学習に繋がったと思います。これに加え、趣旨規範掲載の論点に関する判例判例集から探し、事実を読んで自力で論証と同様の解答を書けるかチェックすると事例問題を解く感覚を掴めるのでおすすめです。特に家族法判例百選は珍しく解説も分かりやすく有益なものが多いように思われ、疑似的な問題演習の解説代わりにする他にもNBS等の教科書を補完するのにも役に立ってくれると思います。期末試験でも相続分計算問題の他は重要判例を基にした事例が出題されることが多いと思われますので、趣旨規範などの論証集で実際に書くべきことを確認しつつ判例にもあたっておくとよいでしょう。
 
 
少々長くなってしまったので、ひとまず今回はここまでということで。
次回は刑法と刑事訴訟法について紹介したいと思います。